Ein Programmkommentar
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《ワルキューレ》作品解説 吉田 真 《ニーベルングの指環》について 《ワルキューレ》はリヒャルト・ワーグナーの舞台祝祭劇《ニーベルングの指環》四部作の 二作目の作品に相当する。 構想から完成まで26年を要した空前の大作《ニーベルングの指環》の創作のおおまかな 経緯としては、まず、《神々の黄昏》)の草案が書かれ、次に《ジークフリート》、 さらに《ワルキューレ》、《ラインの黄金》と、遡るように台本が書き上げられていった。 作曲は頭から順番に始められ、《ラインの黄金》、《ワルキューレ》までは順調に進み、 《ジークフリート》の第2幕まで来たところで中断、《トリスタンとイゾルデ》と 《ニュルンベルクのマイスタージンガー》がその間に生まれた。 その後、《ジークフリート》第3幕から作曲を再開し、最後に《神々の黄昏》をもって 全曲が完成する。 この大作を作曲するにあたって、ワーグナーはライトモティーフ(示導動機)の技法を存分に 活用した。 特定の人物や感情に一定の旋律を与えるライトモティーフは必ずしもワーグナーの 独創ではなく、彼自身、ライトモティーフという用語を否定すらしているが、 実際ワーグナーほどこの技法を効果的に用いた作曲家はなく、 また《ニーベルングの指環》ほど徹底的にライトモティーフで編み上げて 構成された作品もほかにない。 その数は優に百を超え、その意味するところは人物、事物、心情、現象、実音など 多岐に渡っているが、個々のモティーフがその都度さまざまに変形され、その意味する ニュアンスを変えて用いられたり、また、ひとつのモティーフから別のモティーフが 生まれたりもする。 《ニーベルングの指環》のオーケストラは四管編成で、6台のハープを含む演奏者は 110人を数え、オペラの管弦楽としては空前の大規模となった。 弦楽器の人数も初めて指定している。 ワーグナーはこの作品のために、ホルン奏者が演奏するテノール・テューバとバス・テューバの 楽器を考案し、これはワーグナー・テューバとして知られることになった。 この楽器はブルックナーの第七番以降の交響曲でも採用されたほか、のちの リヒャルト・シュトラウスやストラヴィンスキーの作品でも使用されている。 《ニーベルングの指環》四部作の初演は1876年8月、第一回バイロイト祝祭にて、 ハンス・リヒター指揮により行なわれた。 しかし、《ラインの黄金》と《ワルキューレ》のみは、ルートヴィヒ二世の強い要望により、 それに先立ってそれぞれ1869年、70年に、ミュンヘンのバイエルン宮廷歌劇場で、 ワーグナーの承認を得ないまま非公式に初演。指揮はフランツ・ヴュルナー。 《ワルキューレ》までの物語 地底の小人族、ニーベルングのアルベリヒはラインの娘たちから愛を拒絶されて絶望し、 ラインの川底に眠る黄金を強奪し指環を作る。この指環の持ち主は愛を断念する代わり、 世界を支配できるのだ。一方、天上の神々の長ヴォータンは巨人兄弟に建設を依頼した ヴァルハル城の報酬として女神のフライアを与えることを約束していたが、 火の神ローゲの入れ知恵によってアルベリヒから黄金と指環を奪い、それをフライアの代わりに 巨人たちに渡すことにする。 アルベリヒは指環の持ち主に不幸が襲うよう呪いをかけた。 ここまでが序劇の《ラインの黄金》の物語である。 次の《ワルキューレ》は一見、それとはまったく違う物語のように始まる。 この作品にはアルベリヒも指環も出てこないし、第1幕にはヴォータンも《ワルキューレ》の 題名役であるブリュンヒルデもまだ登場しない。 ワルキューレとは「戦場の乙女」としてヴォータンに仕える彼の9人の娘たちで、 特に女神エールダとの間に生れたブリュンヒルデはヴォータンの最愛の娘である。 一方、ヴォータンは人間の女性との間に双子の男女をもうけたが、幼いころに 生き別れになった兄妹がジークムントとジークリンデである。 《ワルキューレ》は、この二人が成人してから期せずして再会するところで始まる。 《ワルキューレ》第1幕の物語と聴きどころ 序奏: うなるような低弦が激しい嵐と逃走を描写する。 やがて《ラインの黄金》の最終場面のように「稲妻の動機」が聴こえ、 凄まじい落雷。嵐は次第に収まってゆく。 第1場: 《ラインの黄金》からは相当の年月が経っている。 ある館の部屋の中。戦いに疲れた男が館に飛び込んできて倒れる。 その家の女が男を見つけて介抱する(男が水を飲むときのチェロ独奏が美しい!)。 男と女は一目で惹かれ合うものを感じるが、男は不幸を持ち込まないようにと、 すぐに去ろうとする。 しかし、女は、ここにはすでに不幸があると言うので、男はみずからヴェーヴァルト (悲しみを守る者)と名乗り、夫フンディングの帰りを待つことにする。 第2場: ワーグナー・チューバによる不気味な「フンディングの動機」が 聴こえてくる。帰宅したフンディングは見知らぬ男に警戒心を抱くが、 作法にのっとり客人として迎える。 しかし、男の身の上話を聞くうちに(語りの最後に印象的な「ヴェルズングの動機」)、 彼が自分の敵の一味であることを知るので、掟に従い一夜の宿を提供するが、 翌日は決闘をするよう言い渡して寝室に消える (荒々しい「フンディングの動機」が繰り返される)。 第3場: ひとり残された男は、父ヴェルゼ(実はヴォータン)が 約束してくれた武器のありかを問う(長く引き延ばされる二度の「ヴェルゼ!」の叫び。 大きなトネリコの木に刺さった剣に光が当たると、きらめくような「剣の動機」)。 男が眠ろうとするとフンディングの妻が忍んでやってきて、「一族の男たちが」と 身の上話をし始めた。 フンディングとの婚礼の際に、ひとりの老人 (実はヴォータンであることを「ヴァルハルの動機」が暗示)がやって来て、 トネリコの木に剣を突き刺していったが、誰も抜くことはできなかったという。 女は、その剣が男のものだと直感した。二人は言葉を交わすうちに愛が目覚め (ジークムントの愛の歌「冬の嵐は過ぎ去り」と、それに応えるジークリンデの 「あなたこそは春」)、 やがて自分たちが幼いころに行き別れた双子の兄妹であることに気がつくが (背景に「ヴェルズングの動機」と「ヴァルハルの動機」)、 燃え上がった愛の炎は止まらない。 女は男をヴェルズング族のジークムントという名で呼ぶと、彼はトネリコの木に刺さった剣を ノートゥングと名づけて(下降する「ノートゥングの動機」)、 これを見事に引き抜く(高らかに鳴る「剣の動機」)。女は自分が妹のジークリンデで あることを明かし、兄の花嫁となることを宣言する。 ジークムントが「ヴェルズングの血に栄えあれ!」と叫ぶと力強く「剣の動機」が響き、 二人はフンディングの館から逃亡する。 ※吉田 真(よしだ まこと) ドイツ文学者、音楽評論家。慶應義塾大学講師。専門はワーグナー研究。 『音楽の友』誌、『音楽現代』誌などに評論を執筆。 主要著書:『作曲家・人と作品 ワーグナー』、 『スタンダード・オペラ鑑賞ブック4 ドイツ・オペラ下』(以上、音楽之友社)。 |